こんにちは、理学療法士の喜多一馬です。
やる気は治療効果を左右する大きな因子です。

「あの人はやる気があって、頑張っているから、良くなったよね。」
「この人はやる気がないし、あんまり変わらないと思う。」

といったような療法士の会話を耳にすることも少なくありませんが、私たち療法士は、そもそも「やる気」に関わる知識をどこまで有しているでしょうか。

今後、「やる気理論を臨床に活かす」と題して、やる気に関わる様々な理論を紹介し、臨床場面での活用方法を考えていきます。 このシリーズを通じて、 「この人には〇〇理論の観点から関わっていこう!」 といったような考え方が出来るようになると、臨床がスムーズに行えるようになるはずです。

それでは早速、最初の理論「自己効力感」をご紹介します。


自己効力感とは

やるき理論_01

自己効力感(セルフ・エフィカシー)、この言葉、 聞いたことがある人も多いでしょう。これは、米国スタンフォード大学で心理学教授を務めた、アルバート・バンデューラというカナダ人心理学者が提唱した概念です。自己効力感とは、簡単にいうと「自分が(ある課題を)出来るかどうかの自信」です。

 

「歩行訓練するけど、ちゃんと出来るかな?」
「筋トレするけど、こんな重さの負荷でもこなせるかな?」
「調理訓練するけど、上手に作れるかしら?」
「バランス練習、上手に出来るかな?」

これらのシチュエーションでの「出来るかどうかの自信」が「自己効力感」と呼ばれるものです。自己効力感が高ければ、困難な課題に対して、次のような考え方になります。

  • 努力する
  • 挑戦する
  • 乗り越えられると信じる

 

一方、自己効力感が低ければ、次のような考え方になります。

  • そもそも困難な状況は避ける
  • 失敗を気にして、挑戦出来ない
  • 乗り越えられないと信じてしまう

これらは気持ちや考え方だけの問題に留まらず、実際の行動にも影響するとされています。

 

 

自己効力感の源

やるき理論_02

自己効力感には、その源があります。例えば1回もスノボーをやったことがないのに、

 

「スノボーめちゃ自信ありますよ!」

とはなりませんよね。 自己効力感を高める4つの因子を紹介しましょう。

 

A.成功体験:行動を達成・成功した経験
B.言語的説得:達成・成功の可能性を他者から説得されること
C.代理経験:他者の達成・成功の様子を観察すること
D.生理的喚起:気分の高まり(課題に関与しないもの)

 

スノボ―では、転倒しなくなって(成功体験)、上級者から褒められ(言語的説得)、上級者の滑りを見ることによって(代理経験)、

 

「スノボー、自信あるんですよ、滑れますよ!」

と自己効力感が高まっていくわけですね。

 

 

自己効力感の高低が、患者様の行動へ及ぼす影響

やるき理論_03

自己効力感の高低を、患者様の行動へ当てはめてみましょう。 自己効力感が高ければ、次のような望ましい効果が想定されます。

  • 難しい訓練メニューも挑戦してくれる
  • 療法士のアドバイスを有効活用してくれる
  • 治療へ積極的に参加してくれる

 

一方、自己効力感が低ければ、こうなります。

  • 厳しい訓練には取り組まない
  • そもそも治療に参加してくれない(嫌々来てくれる)
  • 療法士のアドバイスもあまり聞かない

療法士の介入を阻害するような効果が考えられますね。 また、訓練への取り組み方だけではなく、実際の機能や動作へも影響することがあります。 

  • 独歩に対する自己効力感が低く、歩行器を手放せずに自立出来ない
  • バランス制御への自己効力感が低く、柔軟なバランス反応が取れない

などといったように、自己効力感が影響して、機能や動作が上手くいかないこともあります。

 

 

患者様の自己効力感をどうやって高めるのか

やるき理論_04

患者様の自己効力感を高めるには、4つの因子を利用しなくていけません。 例を交えて、その方法を考えていきましょう。

A.成功体験に働きかける方法
  • 訓練難易度を操作する
  • 達成や成功をフィードバックする
  • 失敗に着目させない

私たち療法士は、「出来ていないことを良くする」という観点を持ちがちです。 そのため、困難な課題を設定することが多いですが、自己効力感を上げるという目的では、適度に達成出来る課題を設定し、

 

「先生、出来ました!」

と患者様に感じて頂くことが大切です。 そして、

 

「〇〇さん、すごい上手に出来ましたね。次はここに気を付けると、良いですよ!」

というように、良い点に着目して、悪い点は患者様も挑戦したくなるように促すと良いでしょう。

 

 

B.言語的説得に働きかける方法
  • 何故、達成出来るのかを、論理的に説明する
  • ポジティブに考えられるように解釈させる

患者様にとって、療法士が放つ言葉は大きな意味を持ちます。

 

「私の経験では、〇〇さんのように一生懸命努力されている人は歩けるようになります!」
「この病態から考えると、頑張れば必ず良くなります」
「今、上手く出来ないのは、上達の過程で必ず必要なものです、むしろ良い傾向です!」

このように、患者様が納得出来るように励まし、説明することで患者様の意欲を向上させることが出来るはずです。

 

 

C.代理経験に働きかける方法
  • 他の患者様の様子を見させる

これは、私が臨床でよく使うテクニックです。病態、症状、年齢、性別等、どこかが似ている患者様で、しかも良い経過の人を指して、

 

「△△さんは、〇〇さんとこんなところが一緒なんですよ。 だから〇〇さんも必ずあんな風に良くなりますよ!」

と伝えます。 患者様は療法士の気付いていないところで、色んな人と自分を比較しています。

 

「あの人はもう歩けるようになってる・・・」
「あの人は私よりも年上なのに・・・」

なんて気持ちになって頂いて、やる気を高めるようにしましょう!

 

 

D.生理的喚起に働きかける方法
  • 体の状態を整える

これは療法士の得意な分野だと思います。 ストレッチ、物理療法、面接などを用いて、心理的にリラックス出来る状態を作り出すだけで、自己効力感は高まりやすいとされています。 これは即時的なものなので、そこから更に、A~Cでご紹介したような手法を用いて、患者様の自己効力感を高めることが有効です。

私たちも体が疲れている時には何を言われても入らなくなってしまいますし、元気な時には人の話を興味を持って聞けるものですよね。


「この患者様の自己効力感ってどんな状態かな?」

なんて考えながら臨床に向かうと、少し変化があるかもしれません。 明日から臨床で活用してみて下さいね!

 

 

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